民間企業に勤める労働者間の組合員割合が全米で6.6%に落ち込んでいる昨今、NLRB(全国労働関係局)はその数値増加の為、色々な手段を検討している。これまでにも、「奇襲選挙ルール」や「マイクロユニット」などの新たなルールが導入され、非組合企業に対するプレッシャーを強めている。今回はこれらに加え、NLRA(全国労働者関係法)により、複数の組織をある一定の労働者の「共同雇用主(Joint-Employers)」とみなすことを容易とする裁定が下された。
これまで『共同雇用主』の定義は、「別個の2者以上の組織が、雇用の本質的な諸条件を掛け持ちして、または共同して決定すること」とされてきた。また、共同雇用主とみなされるには、採用、解雇、懲罰、監督、指示等の雇用上の行為を実際に行っている必要があり、従業員の雇用諸条件を実際にコントロールしていることが必要とされていた。従って、これまでは人材派遣会社と派遣先企業がNLRA上の共同雇用主か否かを判断する場合、この判定法が頻繁に用いられ、大半のケースで人材派遣会社(例えば、従業員に給与を支払い、雇用関係に対する主な責任を負う)が唯一の雇用主とみなされてきた。これが、NLRBに提起される不公平労働、労組関連クレームに関して、雇用主の防御壁的な役割を果たしてもいた。
しかし、Browning-Ferris Industries of California(“Browning-Ferris”)ケースの判決により、NLRBの傾向が著しく変わった。本ケースでは、Leadpoint Business Services, Inc.(派遣会社)がBrowning-Ferrisに提供した派遣社員に関し、Browning-Ferrisが共同雇用主ではないか、という調査が行われた。結果として、NLRBは両者を共同雇用主とみなし、これまでの判定法を廃止し、新たな判定法の導入を発表した。NLRBのウェブサイトでは、Browning-Ferrisにおける新たな判定法による結果を以下の通り纏めている。
NLRBは、(1) コモンロー(慣習法)定義上、両者が雇用主である場合、及び、(2) 実質的な雇用の諸条件を掛け持ちして、または共同して判断、決定している場合、ある一定の従業員達に対して複数の組織を共同雇用主とみなすことを長期間にわたって原則としている。NLRBが、共同雇用主関係の存在を見極めるために、雇用者の従業員に対する適度な決定権の有無を判断する場合、その他の要素に加え、雇用上の諸条件の決定が仲介者を通した間接的なものか、または雇用主自身がその決定権を保持しているか、が重要な要素とされる。
つまり、この判決によりNLRBは、企業が雇用の諸条件に対して実際に決定を下す必要性を取り除いた。NLRBの新基準下では、企業が従業員に対し「間接的」雇用決定権のみを持つ場合も共同雇用主とみなされる可能性が有る。現在のところ、共同雇用主関係が存在するという判決に至る為に、NLRBがどのような「間接的」決定権を適度とみなすか不明である。
今回の新基準設立により、NLRBが共同雇用主関係の存在を裁定することは以前よりも容易になったといえる。共同雇用主関係が裁定された場合、各雇用主に雇用諸条件について労組との団体契約を交渉する義務が発生し、もう一方の共同雇用主と共に不当雇用の責任を追及され得ることになる。この新基準は全ての企業に適用されるが、特にフランチャイズ形式のビジネス、人事派遣会社等にとっては、NLRBでの紛争事件や団体交渉に対する防御壁を失ったことになるので、要注意である。また、NLRBに共同雇用主とみなされることを回避したい場合、人材派遣会社と派遣先のビジネス関係がいかに構築され、実施されているかを調査しておくべきといえる。対策としては、以下が考えられる。
- テンプ従業員の起用を(これまでと同じ状態で)継続するかの検討。
- 人材派遣、フランチャイズなどの契約では従業員の役割、責務を明確にし、免責・補償条項を盛り込む必要を考査する。
- 組合化運動が始まった場合、情報入手を最大限に広げるため、テンプ従業員の配属、就業状況を確認する。(例えば、第三シフトにテンプ従業員が多く、HRとの親密な連携が難しい状況の場合、オープンなコミュニケーションを可能にするなど)。