ハイライト
1月20日、トランプ大統領は米国の移民と国境警備に広範な影響を及ぼす複数の大統領令に署名しました。
米国市民権の定義を定めたこれらの大統領令は、即座に訴訟の対象となりました。
新たな渡航制限や、海外の米国領事館でビザを申請する渡航者に対するさらなる遅延が生じる可能性も考えられます。
トランプ大統領は1月20日の就任直後に複数の重要な大統領令(EO)が署名しました。これらの大統領令は複数の分野にわたりますが、そのうちの多くが移民と国境警備に焦点を当てています。以下に、雇用主および外国人従業員に及ぼす影響についてまとめました。
出生による市民権に関する大統領「米国市民権の意味と価値の保護」
1月20日、米国市民権の意味と価値の保護に関する大統領令が発令されました。出生による市民権を米国市民または合法的永住者の子供に限定することを目的としており、米国市民として認定される範囲を制限する方針が定められています。
合衆国憲法修正第14条の市民権条項では、米国で生まれたほぼすべての子供に市民権を付与しています(外国の外交官の子供には米国市民権は付与されません)。同条項には、「米国で出生し、または帰化し、その司法権に従うすべての人は、米国および居住する州の市民である」と記載されています。要するに、米国で生まれたのであればアメリカ人とされます。この原則は長年にわたって確立されており、米国最高裁の複数の判決でも確認されています。
本大統領令は遡及的なものではなく、2025年2月19日以降に米国で生まれたすべての子供に適用されます。ただし、少なくともどちらかの親が米国市民または米国永住権保持者でない場合に限ります。
これに対し、複数の州と市民権団体が共同で、本大統領令の合憲性を問う訴訟を起こしています。1月23日現在、ワシントンの連邦裁判所は、大統領令を「明白な違憲」として14日間の執行差し止めを命じました。この14日間の期間中に、裁判所は恒久的な差し止め命令を発令するかどうかを決定します。これについては最高裁まで争われる可能性が高いと考えられます。
また、「外国のテロリスト、その他の国土安全保障、公共の安全に対する脅威から米国を保護」という大統領令は、米国への渡航や米国滞在中の移民上の利益を制限する正当な理由となり得る国々を特定するよう、関連連邦機関に指示しています。連邦機関は、現状を60日間で調査し、渡航禁止措置を課すべき国々を大統領に勧告するよう指示されています。
その他の雇用主および外国人従業員に考えられる影響
a) 海外の領事館におけるビザ申請は、全員に対して対面式の面接が実施されるため、予約待ち時間および手続き時間の遅延
b) グリーンカード申請者全員に対して対面式の面接が実施されるため、雇用ベース永住権申請の最終承認の遅延
c) 渡航禁止対象国民の従業員に対する海外渡航の制限
d) プロセス全段階における遅延の増加
雇用主は、2021年1月20日以降にビザで入国した、または居住権を付与された指定国出身の従業員に対し、問題が生じる可能性について、通知の検討をお勧めします。
移民および国境警備に関するその他の重要な大統領令は以下の通りです。
- 南部国境における国家緊急事態宣言の大統領令、および米国の領土保全を守る軍の役割の明確化(米国の国境警備を優先する)大統領令。
- 米国国土安全保障省(DHS)に対し、迅速に強制退去の全範囲を復活し、バイデン政権による強制退去を制限する指針の撤回を指示する大統領令。2年以内に米国へ入国した者は、すべて迅速な強制退去の対象となる。
- カルテルおよびその他の組織を外国テロ組織および特別指定グローバルテロリストとして指定する大統領令。麻薬カルテルと接触したことがある米国入国希望者に影響を与える可能性がある。
- 難民受け入れプログラム再編成の大統領令。新規の難民受け入れを一時停止し、プログラム再開後は、州および地方自治体の関与を強化して難民の受け入れ先を決定する。
バイデン前大統領の大統領令:有害な大統領令および行動の初回撤回
また、トランプ大統領は「有害な大統領令および行動の初回撤回」という大統領令を発令し、移民関連の大統領令を含め、バイデン前大統領が発令したさまざまな大統領令を取り消しました。バイデン大統領が発令した大統領には移民コミュニティの米国社会への統合を目的としたものもありました。しかし、この撤回命令により、特定の公的扶助および帰化手続きに影響が及んだり、より制限的な要件が導入されたりする可能性があります。
亡命:米国国民を侵略から守る大統領令
これも1月20日に発令され、亡命希望者および家族再統合に関するバイデン政権の大統領令の多くを無効にしています。また、これにより国土安全保障省およびその傘下の機関や省庁の民事および刑事上の執行の優先順位を強化しています。本大統領令は、司法長官および国土安全保障省長官に対し、執行タスクフォースを設立し、州および地方の法執行機関と連携するよう指示しています。
本大統領令では、子供の人身密輸対策に重点を置き、「利用可能なすべての法執行手段」を使用するよう指示しています。国土安全保障省と労働省(児童労働法の施行を担当)の両方が関与するものを含め、職場への強制捜査や調査が増加すると考えられます。
雇用主に影響を与える可能性があるその他の主な規定は以下のとおりです。
a) 取締強化に協力しない地方自治体等「サンクチュアリ・ジュリスディクション(sanctuary jurisdictions)」への連邦資金提供の保留を検討するよう、関連機関に指示。「サンクチュアリ(聖域)」を支援する組織の雇用主はリスクにさらされる可能性がある。
b) 雇用許可証(EAD)の有効期間と適用範囲の制限、および一時入国許可プログラムの停止を審査、検討するよう関連機関に指示。これにより、一時入国許可EADを所持する労働者の雇用許可は失効する可能性がある。
c) 一時保護ステータス(TPS, Temporary Protected Status)の付与がすべて法律に「準拠」していることの確認。これにより、一部の国々に対する一時保護ステータスは取り消される可能性があり、その結果、それらの国々からの就業者が就労許可を失う。
d) 違法滞在者である「強制退去対象者」に対して、直接的または間接的に支援やサービスを提供している非政府組織が、移民法を促進または侵害していないことを確認するため、すべての合意事項の再検討および監査。非営利サービス組織、大学、カレッジ、病院は、この規定により監査の対象となり、連邦政府からの資金援助が打ち切られる可能性がある。
米国移民税関捜査局(ICE)、税関国境警備局、米国移民局に対して、移民法の施行と、米国への不法入国または不法滞在に関連する犯罪の起訴を優先するよう義務付ける大統領令の条項により、職場への立入検査が大幅に増加する可能性があります。これには、I-9の順守、H-1B労働者を雇用する雇用主の賃金および労働時間の監査、司法省の人権擁護局による逆差別的請求の可能性などが含まれますます。
トランプ大統領は米国国土安全保障省に対して、米国に不法滞在する者およびその滞在を助長する者に対するICEの取締りに関して、法律で認められた罰金の徴収、処罰の査定を確実に実施するよう命じています。不法就労者を故意に雇用したことが判明した雇用主や、推定的な知識が関わる状況に重大な影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
まとめ
これらの大統領令は、移民法の改正を意図しており、国土安全保障省、国務省、労働省、司法省など、連邦政府全体にわたって大幅な追加変更をもたらす可能性が高く、一部は訴訟となる可能性も考えられます。
詳しくは英語版をご覧ください。
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